『サピエンス異変』を読んで
ファイナンシャルタイムズの「2018年ベストブック」に選ばれた本の紹介です。
文量も多いので、複数に分けて感想を書いてみたいと思います。
まずさっそく原書のタイトルですが
PRIMATE CHANGE
(霊長類 変異)
How the world we made is remaking us
(世界がどのように、私たちの身体を作り変えてしまったか)
これがそのままこの本のテーマになっています。
私たちはあたりまえですが現代にしか生きたことがないため、なかなかこのことに気付くことができません。
この本ではいかに現代社会が、人の身体的特徴を無視してつくられてしまったかということを、いくつもの事例を用いながら説明しています。
たとえば現代、
生まれて数ヶ月の赤ちゃんが靴を履くことはなにもおかしなことではありません。お祝いのギフトになっているものも見かけます。
しかし靴を履くという行為は、人類の歴史の中ではほんのつい最近始まったことです。
ホモサピエンスの登場が10〜20万年と言われていますが、"現代の靴" を履くことが当たり前になったのは、ここ数十年です。
怖いのが、靴を履くことでかかとはつま先より平均で1cm以上高くなり、それが本来の歩き方とは異なる歩き方を強制してしまうことです。
重心の移動ルートが変わると、使う筋肉や骨格さえも変わってしまいます。一昔前に扁平足というものは存在しませんでした。
行動パターンなんかはまさに今、現在進行形で変わっています。
ボタン一つで、だいたいの物が玄関まで届きます。最近ではリモートワークにより人と会うために出かける機会も急速に減少しつつあります。
結果、歩くという本来の動作が減っています。
では何をしているのか?(これは非常に大切な問いですので、次回書きたいと思います。)
動物種は、軟体動物、ヒトデ、トンボのように、進化したのちに停滞することもある。page 232
なんだか火の鳥〈宇宙編〉を思い出させます。ヒロインの女性が醜い植物にメタモルフォーゼした姿に、幼少だった私はひどく落ち込みました。
進化の方向に正解はなく、環境に適応した特徴が結果として正解になると考えられています。ただ人が生きている間にその体が現代の環境に適応するには、変化のスピードが早すぎるのだと著者は指摘しています。
そして、この急速な社会の変化に犠牲になっているのが身体です。
変化に適応しきれないことからあちこちで「痛み」や「病気」として悲鳴をあげている、これが今まさに私たちの身体に起きていることだと。。
余談ですが、私は現代の人が抱えている腰痛や過食によって起きる様々な病気は、基本的に個人の責任によるものではないと考えています。
狩猟民族から農耕民族へ、富を貯蓄できるようになった時から人はこの宿命を負ったのだと理解しています。だからある意味仕方がないことなのだと。
しかし達観できるほどの余裕がないくらい、私たちの身体は急を要しています。
(私の腰は、いっこうに私の説明に耳を傾ける気配はありません)
私はこの本に出会い、現代(異常な時代)をいかに無意識に(無防備に)生きていたことに気づくことができました。1ミリの誇張もなく。
(私の腰も、いつか私の説明を受け入れてくれる日がくると信じていました)
良書なのでぜひ手に取って読んでみることをお勧めします。きっと多くの気づきがあると思います。
しかし残念ながらじっくり読むには時間がかかる本でもあります。次回から1部ごとに第5部まで紹介したいと思います。
プロローグ―私たちの身体に異変が起きている
第1部 紀元前八〇〇万年~紀元前三万年
第2部 紀元前三万年~西暦一七〇〇年
第3部 西暦一七〇〇年~西暦一九一〇年
第4部 西暦一九一〇年~現在
第5部 未来